これでイイのか!? DVD!

 

第3回 『カプリコン・1』

 

今回ターゲットにするのはピーター・ハイアムズ監督入魂の傑作『カプリコン・1』(77)です。1978年の正月映画として、77年暮れから公開された東宝東和創50周年記念の映画。という事になっていますが、まぁ、たまたま、正月映画として選ばれただけで、これが本当に東和の創立50周年を記念して作られた映画なのかというと、実際には、そうではないのですが、同時期公開の『オルカ』(同じく東宝東和配給の50周年記念映画。地方ではこの2本がカップリング上映されたそうな)と並んで、当時は結構燃えたものです。

で、『カプリコン・1』ですが、もう、この映画に関しては、説明不要でしょう。世界初の有人火星宇宙船に纏わる陰謀を描いた映画で、アメリカの副大統領を含む一部の政府要人と科学者たちによって、火星着陸がデッチ上げられるという国家的な陰謀と、それに立ち向かう勇敢な新聞記者、そして命を賭けて全世界に真実を暴露しようとする3人の宇宙パイロットたちとの息詰まる攻防戦が展開。もう最初から最後まで、ハラハラ・ドキドキの連続、スリリングなカー・アクションや、複葉機とジェット・ヘリコプターとの迫力あるスカイ・チェイスなど、とにかく一度観始めたら止められない、ポリティカル・フィクション、そしてエンターテインメント映画の傑作として、今なお、根強いファンが存在しています。実は僕もその一人で、ロードショー公開で正月に観て以来、毎月何処かの名画座へずっと追いかけ続け、半年間で15回も劇場で観てしまった挙げ句、最終的には、あの『スター・ウォーズ』を押さえて、1978年度のベスト1作品に選んだぐらいでした。

で、そんな大傑作が、当然のように、今現在、DVDリリース(発売元は東北新社)されている訳ですが、実を言うとこのDVD、カット版なのです。嗚呼…また、何故…!? 日本で劇場公開された時のランニング・タイムが129分。なのにこのDVDは、124分と、約5分カットされています。何故だ〜!

いや、正確に云うと、今まで日本でリリースされてきたビデオ・LD等が、既にカット版だった訳で、だから今に始まった訳ではなく、端的に言うと、今までのビデオ&LD版と、同じバージョンでDVD化されている、というだけなのですが…。

劇場公開版と、DVD版(ビデオ&LD版も含む)との違いは、主に3カ所あります。まず、これはカットとは違うものですが、各シーンの始まりに“○月○日”という日付がスーパーインポーズされている事。劇場版では全く何の字幕もなかったのですが、恐らく、カプリコン・1が地球を飛び立ってからどれぐらいの日数になるのかという状況説明を分かり易くする為に、後に付け加えられたものであると思われるのですが、この件に関しては、今回は別に問題ありません。

後の2カ所は、共に劇場公開版からカットされている部分です。まず、カプリコン・1が火星へ着陸する前の、司令船と着陸船とのドッキング・シーン。この約5分間が、全面的にカットされています。そしてもう一カ所は、クライマックス近く、主人公の新聞記者(演じるはエリオット・グールド)が、パイロットの一人が言い残した言葉を元に、フラットロックという町を訪れた際、何者かによって狙撃されるシーンで、撃たれる弾の数が、劇場版より少ないんです。まぁ、時間的にはほんの数秒ぐらいでしょうが、やっぱり、気になります。

しかし、やはり重要なのは、先のドッキングのシーンで、「キネ旬」の分析シナリオによると…

 

――(前略) ライトに照らされた格納庫のスタジオ。ゆっくり着陸船のシュミレーターに近づいていく司令船のシュミレーターは、後半部分がなく、接続した運搬車の運転手が、それを動かしている。だが、管制センターのスクリーンでは、いかにも本物らしくドッキングの様子が映し出されている。(中略) スクリーンでは、無重力状態を示すように、ウィリス(パイロットの一人を演じるサム・ウォーターストン)のペンがフワフワと空中を漂う。だがそのペンは、細い糸で、スタジオの天井から吊られている。(後略)――

 

…というように、いかにも本当に火星へ行っているかのような様子が、観客に判るように“ヤラせ”で描かれている、この映画にとっては非常に重要なシーンになっていて、カットする必要など、全くないと思われる訳ですが…。

では、何故カットされているのか? この映画が日本で初めてメディア・ソフト化されたのが、1983年にパイオニアからリリースされたLDでした。当時は、二カ国語版が主流だったLDの中で、ちゃんと字幕スーパーで、そして擬似ステレオではあるものの、ステレオ音声でリリースされたのは、ある意味嬉しかったものです。でも、ランニング・タイムは、124分のカット版でした。気になったので、当時、僅かですが、日本で販売されていた輸入版テープ・ソフトのランニング・タイムを調べた所(表示の上だけ、ですが)、やはりそれも124分になっていて、その時点で、アメリカ版自体がカットされたバージョンなんだという事に気が付きました。

で、その前に同じパイオニアからリリースされていた『カサンドラ・クロス』(76)のLDを調べてみると、これも劇場公開版のタイムの129分に比べ、、そのLD版は122分になっていたものだから、これはひょっとしてアレかナ〜と、思ってしまったものです。

つまり、アメリカでビデオにする際に、2時間を超える映画だと、120分テープに収録できない為、何とか収めるようにと、カットされているんじゃないか、と。第1回で取り上げた『ドラゴン怒りの鉄拳』の時のように、早回しという手もありましたが、実際にLDになっているものを観たところ、早回しにはなっていなかったので、ここは単純にカットだけかも知れないという推測が成り立ちました。

120分テープには、122〜124分ぐらいまで収録できるので、『カサンドラ・クロス』の122分といい、『カプリコン・1』の124分といい、丁度それに相当する時間だナと思った訳で、それがそのまま日本版LDでも適用されているのが何とも悔しかったものです。まぁ、アメリカ(発売元はマグネティック・ビデオで、今のフォックス・ビデオの前身)から送られてきたマスターがそうなっていたので、致し方なかったのでしょうが、オリジナル版を知っているだけに、そして、大好きな映画だけに、随分悔しかったものです。

それ以後、テープ、再発LD、廉価版テープと、一番最初のLDを含め、4バージョンに渡ってリリースされてきましたが、全て124分のカット版でした。そして今、DVDです。今度こそ、今度こそ、オリジナル通りの129分版でリリースされるんではないかと、期待していたのに、やっぱりダメでした。一応、画面はスコープ・サイズのワイドになっていて、それについては嬉しかったのですが、やはりカットされているのが気になってしょうがありませんでした。

しかし、驚いたのは、同じようにカット版でしかリリースされていなかった『カサンドラ・クロス』が、今年になって同じ東北新社よりDVDでリリースされた際、何とオリジナル通りの129分版でのリリースだった事(まだ、実際には確認していませんが…)。『カサンドラ・クロス』は元に戻っているのに、何故『カプリコン・1』だけが〜…! と、余計悲しくなってきました。

因みに、『カサンドラ・クロス』も『カプリコン・1』も、イギリスのITC(※下部@参照)の製作で、だから関連性がある訳なのですが、このITC作品というのは、大体が、アメリカよりも先に日本で公開されていたのが多かったようで、ある意味、アメリカ公開時に手が加えられている場合があるという事実に突き当たりました。同じITCの『ブラジルから来た少年』は、明らかにアメリカ版と日本版(未公開作品なので、日本でリリースされたビデオ&LD版という意味)とで、ラスト・シーンが違っている他、今回取り上げた『カプリコン・1』も、色々調べた結果、アメリカでは124分版で公開されている事が判明。そう、つまり、ビデオにする時にカットしたのではなく、アメリカ公開の際に既にハサミが入れられていた訳だったのです。ナ〜んだ…。

結局、我々が観た『カプリコン・1/129分版』は、日本での劇場公開以来、封印されてしまったようで、何故カットされたのかという理由(※下部A参照)はともかく、せっかく高品位のDVDになっても観られないという現状が、とにかく悲しくて寂しいです。何処のメーカーでもイイから、完全版(オリジナル版)で再発してくれ〜! と大いに叫びたいものですが、ダメなのでしょうか。

しかし、何度も言いますが、DVDは今のところ、映像メディアの最終兵器だと思います。なのに、完全な形で観られないというのは、実に不可解で納得いかないものです。それにリリース・メーカーも、こういう事情が判っているのに、敢えてしょうがなしにリリースしているのか、それとも、全く何の事情も知らないのか。その辺りも謎に包まれているのですが、何となく、ただ、むこうさんから送られてきたマスターを元にDVD化してみました、みたいな、そんな風に思ってしまうのですが、どうなのでしょう。

とにかく、好きな映画だけに、悔しくてしょうがありません。最初は買うつもりなかった(カットされているので)のですが、スコープ・サイズのワイド画面でもう一度観てみたいと思い、つい買ってしまったのでしたが、とにかく、あの失われた5分がまた観られるように、何とかして欲しいものです。イヤだけど、もう一度買いますヨ! 完全版でリリースしてくれたら! 

 

 

※@ ITCについて

元々はイギリスのテレビ・ドラマの製作会社で、70年代中盤から、傘下のアソシエイテッド・ゼネラル・フィルムを通じて映画製作の事業に乗り出し、約10年間、ハリウッド製に負けないエンターテインメント大作を世に放った映画会社。サー・ルー・グレード主宰によるこの社のポリシーは、世界的なスタッフ&キャスト陣による、良質なエンターテインメントを目指す、というもので、いわば、例えは悪いが、我が国の角川映画のスケール・アップ・バージョンとでも言えるようなもの。確かにこの社が作った映画を並べてみると、アメリカを中心としたスタッフによって、世界のスターたちが出演する豪華なエンターテインメント映画というのが目白押し。

製作した映画には、『さらば愛しき女よ』(マーロー映画の傑作!)『カサンドラ・クロス』『カプリコン・1』『鷲は舞い降りた』『ブラジルから来た少年』(未)『さすらいの航海』『オフサイド7』『ドミノ・ターゲット』『ブルックリン物語』(未)『メデューサ・タッチ』(未)…と、見渡す限り、一見アメリカ映画風のエンターテインメント大作ばかりで、どの作品も大抵はオールスター・キャスト。しかも、チョッピリ政治的なメッセージを含んだ映画もありという、映画評論家の石上三登志氏によると、“ネオ・エンターテインメント”作品のオンパレードという嬉しい映画会社だった。一時なんか、ハリウッドのメジャー会社をも凌駕する程の勢いを見せていたのが、懐かしい思い出です。現在は、映画製作はほとんど行っておらず、元のテレビ製作に戻っているようです。日本では、主に東宝東和日本ヘラルドが窓口になっていました。

 

   

※A カットの真相について

その後の調べで、この『カプリコン・1』は、129分のイギリス公開版=オリジナル版=日本公開版と、124分のアメリカ公開版=カット版の2バージョンある事が判明しました。しかし、129分版で公開されたのは、どうやらイギリスと日本だけみたいで、アメリカを始めとする諸外国は、ほとんどが124分版で公開された模様です。カットされた部分は、上記の箇所の通りで、理由は推して知るべし、というか、特に中盤のドッキング・シーンに問題有りとされた為ではないかと思われます。つまり、世界中を騙す為に、NASAが仕掛けた“嘘”の部分をあからさまに描いてるのが、NASAというか、アメリカの逆鱗に触れたのがその理由のようで、アメリカでの公開の際に、そこがバッサリ切られた訳ですね。

しかも恐ろしいのは、その後はあたかも、最初から129分版は存在しなかった事にされている事。バージョン違いについては、かなり詳細に記されているIMDbの記載にも、別バージョンについては全く記されていないし、映画公開から現在に至るまでに発売されたどこの国のどのソフト(ビデオ・LD・DVD)に於いても、124分版でしかリリースされていない事という風に徹底されている事ですね。つまり、我々が観た129分版は、今や完全に抹殺&封印されてしまったという事になる訳で、おそらく製作スタッフに訊いても、「この映画は最初から124分だヨ」と云うに違いないんでしょうね、きっと。そんな風にかん口令でも敷かれているのだと思われますね。一度、ピーター・ハイアムズ監督本人に、この件について訊いてみたい気がしますねぇ。彼も同じようにそう云うのでしょうか…。

 

 

inserted by FC2 system