フェイバリット監督@

我らがフカサク映画、怒濤の10連発

 

昨年も話題の『バトル・ロワイアル』を放って、

まだまだ元気な所を見せた我らが深作欣二監督。

香港のジョン・ウーや、アメリカのタランティーノなど、

アクションや男泣き映画を志す監督たちに

多大なる影響を与えた日本の“男泣き映画”の元祖・フカサクを

今一度振り返り、その止むに止まれぬ男の情念を

ヒシと心に留め、明日への活力にしたいと思います。

男たちよ、泣けるだけ泣け!

 

★某日某日午後6時00分

まず1本目は、その後のヒット作『仁義なき戦い』への布石となった『現代やくざ/人斬り与太』(72)。

                          

組織からハミ出したヤクザを演じる菅原文太が、まさに狂犬そのものの激しさで、全てのモノに対して牙を剥くという図式は、その後の『仁義なき戦い』に繋がるもの。義理もなければ人情もない、ただ、自由奔放に、やりたい放題に生きるだけという主人公は、まさしく“現代ヤクザ”そのものの姿で、これはつまり、それまでの東映の仁侠路線に対する、深作欣二監督なりの挑戦とも言うべきもの。石松愛弘の脚本がとにかく素晴らしく、特に、たった一人登場する女(渚まゆみ)の描き方は、主人公同様、孤独な悲しみが伝わってきて、とにかく侘びしい。ラスト、その女の作った赤飯のおにぎりが転がるシーンに男泣き。

 

★午後7時40分

続いて、“人斬り与太”の第2弾『人斬り与太/狂犬三兄弟』(72)。

                   

主演の菅原文太は続いての出演だが、ストーリー的に繋がっている訳ではなく、あくまでも、同種のストーリーによる類似作品。しかし、主人公の凶暴性、そして暴力性は、前作を上回っており、今回は主人公の仲間として、田中邦衛と三谷昇が参加、タイトル通り、“狂犬三兄弟ぶり”で、大組織に真っ向から挑んでいく、自己破滅的な暴力映画。今回も、前作同様、渚まゆみが、やはり同じような役柄で登場、またまた涙を誘う。深作映画は、男の映画だと思われがちだが、どっこい、女心も微妙に描かれているのが特長。

ラスト近く、親にお金をせびりに行った田中邦衛が、その親(菅井きん)と弟に、メッタ打ちにされて死んでいく様は、“親が子を殺す”というこの映画のテーマに合致していて、物悲しくなってしまう。そして一人残った野良犬・文太は…。不器用な男の生き様をまざまざと見せ付けられて、身に染みる事必至。ヤクザとは、そして男とは、厳しい生き物なのだ。

 

★午後9時15分

続いて3本目は、その2作の“現代やくざもの”で認められた深作が、ここぞとばかりに威力を発揮した、代表作にして大ヒット作、『仁義なき戦い』(73)。

                   

このシリーズ、番外編も含めて9本(タイトルだけ拝借した昨年の阪本順治作品を入れると10作になるが…)あり、特に正編シリーズは、全て話が繋がっているだけに、1作目を観たら2作目が、そして次に3作目…という具合に続いていきそうになるのだが、そこを我慢して、今回は1作目だけ。

もう、何も言う事はありません。今回も含めて、一体何回観ただろうか、この映画。ナンか、落ち込んだ時とか、ムシャクシャした時に、大抵、深夜にビデオて観ていた思い出があり、もう数え切れないぐらい。

演出・脚本・撮影・編集、そして音楽(これが血湧き肉踊らされる!)と、これ程までに完成されたヤクザ映画はちょっと類を見ないぐらいの傑作。ヒットして当然だし、その後続々とシリーズ化されるのも当然と言えよう。

これ1作でも話は完結しているので、見応えと充実感は十分。出演者もみんな若いし、イキイキしているし、単なるアクションだけでなく、組織や個人の駆け引きなども面白い、とにかく、全てのヤクザ映画の基本となる作品である事を、今回痛感。ラストの文太のセリフが、とにかくカッコいいです。

 

★午後11時05分

そして4本目。ここで雰囲気をガラリと変えて、アクション篇へと突入。まずは『暴走パニック/大激突』(75)。

                  

深作監督の、非ヤクザ映画にも傑作は多いが、これもそんな中の1本。渡瀬恒彦演じる銀行強盗犯が、逃亡中に、警察・市民・マスコミを含めた自動車軍団の一大追跡戦に巻き込まれるというストーリーは、ある意味スラップスティック、である意味ハチャメチャ。

当時ヒットしていたアメリカ映画『バニシングIN60”』のカー・チェィス・シーンをヒントにして撮影されたというこの映画の阿鼻叫喚のクライマックスは、恐らく、日本映画史上、これ以上は望めないベストのカー・アクションだろう。車がポンコツだろうが、チェイス・シーンにスピード感がないなど、そんな通り一遍の批判をも越えたシュールなカー・チェイスが、深作監督の反骨精神を表現しているようで、とにかく素晴らしい。

因みに翌年、同じ渡瀬恒彦主演で、“東映メカ・アクション・シリーズ”(勝手に命名)の第2弾として『狂った野獣』が作られたが、ソチラの方の監督は中島貞夫だった。それも傑作なので、いつかやる“中島貞夫10連発”か“渡瀬恒彦10連発”に乞うご期待!

 

★午前0時30分

ここでちょっと休憩。トイレを済まし、眠気覚ましにコーヒーわ飲むも、今回はほとんど眠気がない。やっぱり、全て日本映画で、字幕スーパーを読む必要がないので、そんなに疲れないからだろうか。それに、みんな古い映画なので、音声はモノラル。だから、ドルビー・サラウンド作品のように、リスニング・ポジションを気にせず、寝っ転がっても観られるから、精神的にも肉体的にも楽だからだと思う。ようし、この調子でドンドン行ってみよう。

 

★午前1時00分

5本目はちょっと毛色の変わった作品で『ドーペルマン刑事』(77)。

                 

千葉真一主演の刑事アクションものだが、ポイントは、千葉チャンのアクションではなく、芸能ブロモーターの松方弘樹と、その周辺のドラマに比重がかけられている。と、言いながら、途中何カ所か、千葉チャンのカラテ・アクションも垣間見れるというサービス満点の映画だが、全体的に暗く陰湿なので、そんなに楽しい映画ではない。

千葉チャンは、沖縄から出張してきた刑事なのだが、いつもブタを引き連れて歩いていて、まるで“子連れ狼”ならぬ“豚連れ刑事”である。ストリッパーのヒモ役の川谷拓ボンや、偏執的な警官に扮した室田日出男など、一癖も二癖もある連中のキャスティングは、まさに東映テイストだが、コミック原作の映画化にしては、先程述べたように、スカっと明るくないのは、深作監督の狙いだったのだろうか。因みにこの作品は、竹内力主演でVシネマでリメイクされているが、ソッチの方はド〜なんだろう。

 

★午前2時40分

折り返し地点は、ちょっと派手に行こう。今回はほとんどが70年代の作品だが、唯一90年代なのがこれ。『いつかギラギラする日』(92)である。

                  

深作映画としては、無難な水準作って感じで、若者に焦点を当てている所なんか、後の『バトル・ロワイアル』への試走だったのか、ナンて事は、ちょっと考え過ぎか。とにかくここでも、若者VS中年ギャングという戦いを描いていて、観ている我々としては、どうしても中年たちへ肩入れしてしまうのは、若者を演じた木村一八と荻野目慶子が、完全にイカれちゃっているからで、この辺りの深作監督の意図はいかなるものか。

しかし、リーダーがショーケン、そして千葉チャンに石橋蓮司という、中年グループのメンバーが渋い。他にも原田芳雄や安岡力也など、男・男・男っていう感じで、ヤクザ映画とは血違った魅力で迫っているのは、深作監督の面目役如か。中盤のカー・アクションも、迫力はイマイチだが、『暴走パニック/大激突』の頃に比べたら、かなり洗練されてスピード感もアップしている。ま、17年経ってますからネ〜。

ラストのショーケンの心意気も、良かったのだが、未だに続編は登場せず。このままのストーリーで、タランティーノが作っても面白そうなのだが…。

 

★午前4時40分

そろそろ外は明るくなりかけている。前作が唯一のドルビー・サラウンド映画だったので、ここからはまた、静かだが、燃えている男の映画がしばらく続く。そんな7本目は、深作監督のアクション・テイストが、ヤクザ映画に上手く活かされた作品『新・仁義なき戦い/組長の首』(76)である。

                

今回は、極力“仁義なき戦いシリーズ”はやらないようにしようと思ったのだが、これだけはドーしても入れたかった。新シリーズの方は正シリーズと違って、一話完結、つまり、それぞれが独立した作品になっていた訳で、この作品は、完全なるリメイクだった前作とは、全く関係ない話になっている。

舞台は九州で、九州の地元ヤクザと関西の組織との戦いがメイン。ま、やってる事は、今までのシリーズ作品と変わらないんだけれど、今回は、まるでゲームのような、そしてギャンブルのようなスリリングな感覚がポイント。中盤に展開されるカー・アクションも、『暴走パニック/大激突』で培ったものか大きかったと見え、ヤクザ映画にしては、エラく力の入ったシーンであった。

それに、ここでも、深作映画得意の、女のエピソードが登場。男(組織の組長)に熱を上げては、その座がアブなくなると、早々に違う男に乗り換えるという、ひし美ゆりこ(アンヌ隊員!)のサゲマンぶりが笑いと恐怖を誘い、それがラストにピタリとハマる辺りは、深作監督絶好調とも言うべき幕切れで、ヤクザ映画にしては、珍しくカタルシスをもたらせてくれる映画でもあった。

尚、そのクライマックス・シーンにチラっと千葉チャンが酒場のバーテン役でカメオ出演しているのは、何でも隣のスタジオで別の映画を撮っていて、ちょっと遊びに来たからとの事。いきなり出てくるので、ビックリしてしまいました。

 

★午前6時25分

さすがにちょっと眠くなってきた。ここでまた休憩。モーニング代わりに、トーストとコーヒーで腹ごしらえした後、お風呂でシャワー。まだ、眠気が取れないが、もう一度コーヒーを飲んで、再出発。

 

★午前7時00分

次はまたまた暗い、孤独な男の世界に戻って『仁義の墓場』(75)。

                

当初、『仁義なき戦い』で松方弘樹が演じる役にオファーされていたというのが、渡哲也だったらしいが、その哲チャンが、満を持して三角マークに登場した、これが“渡哲也・東映第1回主演作品”。

哲チャンが古巣・日活で演じ続けた“無頼シリーズ”(これも今度、シリーズ通して観てみたいナ〜。渡哲也10連発もやらなきゃ…)の藤田五郎が原作を書いているというのは、何かの因縁か。関東ヤクザではちょっと有名な、石川力夫の半生を描いたセミ・ドキュメント作品で、盃や仁義なんかクソ食らえとばかりに、組織(相手も自分とこも)や掟に牙をむいた凶暴なハミ出しヤクザ・石川力夫を、とにかく哲チャンが好演! 

オープニングからラストまで、やる事なす事全てがハチャメチャな、この狂った野良犬が、それまでの“仁義なき戦いシリーズ”で、結局最後まで、親分(金子信雄)に牙をむける事が出来なかった文太の復讐をやってくれているみたいで、まさに深作演出は怨念がこもっているよう。

確か、これを劇場で封切りで観た時は、『新幹線大爆破』と2本立だったっけ。今から思うと、こんな豪華な2本立はなかった訳だ。なのに、場内は閑古鳥が鳴いていたっけ。しかし泣きたいのはコッチだ。不入りだから泣いたのではない! 石川力夫=渡哲也の生き様・死に様を見て、泣けてくるのだ!

 

★午前8時45分

続いては、前作に続いて渡哲也が東映のヤクザ映画に出た『やくざの墓場/くちなしの花』(76)。

                 

一応、我々ヤクザ映画ファンは、前作とこの作品を、“墓場シリーズ”と呼んでいるが、ストーリー的には全く繋がりがない。今回の哲チャンは、ヤクザではなく、逆にヤクザを取り締まる四課の刑事役。しかし、ヤクザを憎むが故に、そのヤクザの世界にドップリと浸かってしまうという、何とも皮肉な結果に陥る主人公を、またも好演。実は、彼のいた警察機構の方が、ヤクザ社会以上に薄汚れていたというのは、これまた強烈で、まさに深作監督テイスト。

サブ・タイトルの「くちなしの花」は、哲チャンのヒット曲だが、この映画のエンディングに流れた時ほど、素晴らしい曲だと思った事はなかった。それ程、男の心に染み入る名曲である。

因みに、渡哲也の役名が“黒岩”となっているが、これは後に石原プロ初のテレビ・シリーズ『大都会』で、哲チャンが演じた主人公の刑事の名前が黒岩だった事を思うと、もしかするとこの映画が元ネタか? 上司役の佐藤慶も出ているし…。

 

★午前10時35分

さて、いよいよオーラス。色々観てきたけれど、最後は、僕にとっての、深作監督の最高傑作をセレクト。『県警対組織暴力』(76)であります。

               

菅原文太扮する四課の刑事と、地元ヤクザ・松方弘樹との癒着の関係を中心に、現代に於ける警察とヤクザとの微妙な関係を正面切って描いた、恐らく、深作監督の最高傑作。『やくざの墓場/くちなしの花』も、同じような設定だったが、より組織の構造に肉迫したという点で、コチラの方が凄みがアップ。

キャッチコピーにある“刑事<デカ>と呼ばれるこいつも人間!”という謳い文句が、この映画の全てを語っていると言ってもいいだろう。地元警察では解決出来ないと見た警察は、県警を送り込んで、癒着、並びに、地元ヤクザの一斉排除を試みようとするが、それによって、波紋はドンドン広がっていく。そのお陰で、県警のエリート刑事と、ついつい衝突してしまう地元の刑事達だが、その中の一人が「ヤクザ取り締まろうとすれば、ヤクザのレベルにまで墜ちんと、いけないんヨ!」と叫ぶその声は、この映画のズバリ、テーマである。

一応、ヤクザと警察の社会に準えられているが、これは、我々の一般社会にも総じて言える事であるのは百も承知。調子のイイやつだけが生き残り、野心に燃えていた者は排除されるのは、どこの世界でも同じ。

ラスト、全ての成り行きに翻弄されてしまった主人公・文太の哀れな末路。何度観ても、涙が溢れてしょうがないシーンだ。号泣……。まさに、男泣きとはこの事。これを観ずして何がヤクザ映画だ。何が深作だ。何が日本映画だ。あの“世界の”北野武監督も、デビュー作では意識したというこの映画は、70年代はおろか、21世紀の今になっても、語り継がれる、絶対的な傑作であると、ここて断言したいと思う。

 

★午後0時16分

今日も全てが終了した。今回は、題材が題材だけに、暗くてジメジメした映画が多かったが、改めて深作監督の映画は、男を、そして人間そのものの怒りや悲しみを喚起させる、凄い映画だという事を再認識させられた。それでいて、エンターテインメントとして、映画が面白いのだから、素晴らしい事だ。日本を代表する監督として、世界デビューしてもおかしくはないと思うのだが、案外、このテイストは、西洋の人間には分からないのかも知れないナ〜。そう思いませんか、タランティーノさんよ。

いつの日か、深作監督・タランティーノ脚本・そして千葉真一主演のアクション映画が作られる事を夢見ながら、眠りに就きたいと思います。おやすみ…なさい…。

 

      

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