ビデオよもや!?話

 

第1回 『ザ・キャッチャー』

 

さて、今回ご紹介するのは、『ザ・キャッチャー』という映画。一昨年(1999年)の夏頃に劇場公開されたらしいですが、どうやら東京方面だけのようで、その他の地域では未公開だったようです。そんな時こそビデオの力に頼りましょう。

この映画の噂は、雑誌等でチョクチョク話題になり、大体どんな映画が掴んでいたもので、今回観るに当たり、大いに期待させてくれたのでしたが、それが大きな間違いであると気付いたのは、始まって10分ぐらい過ぎた辺りだったでしょうか。

まず、ある雑誌では“プロ野球の試合中に、サイコなキャッチャーが、スライディングしてきた相手の選手を刺すわ、殺すわの大活躍!”と紹介されていて、今度はこのビデオの発売元の宣伝マンが、“野球の試合中に、キャッチャーが相手チームの選手を殺しまくる、それだけの映画。マジマジ、バットを口ん中に突っ込んで殺したりするの。殺人の動機? ホームベースを守る為。本当にホームで刺しちゃうんだよ。マジ凄いよ”と息巻いて喋っているのを聞くと、そりゃあ誰だって観たいと思うでしょう。僕もその一人でした。

上手い具合にこの映画のビデオを観る機会に恵まれ、取り敢えずパッケージを手に取って見たところ、いきなり、“アメリカ大リーグは、最悪のシーズンを迎えた”というキャッチコピーが目に付いた。で、裏表紙を見てみると、今度は、“世界初のベースボール・パニック・ホラー登場!”と書いてあり、その下にある解説らしきものを読んでみると、“選手生命を断たれた男は恐るべき復讐に立ち上がる! 血まみれのホームベースに生還するやつはいない。選手は獲物となり、観客の熱狂は悲鳴に、そしてグランドは墓場となった!!!”と書かれていて、もう何が何でも、期待が胸いっぱいに膨らんでしまいました。

で、観ました。メイン・タイトルは、目だけが異様にギラついているキャッチャーマスクを被った男のドアップがバックになっていて、雰囲気バッチリ。その後、オープニング・シーンは、グランドでキャッチボールしているお父さんと息子さんという、よく見掛ける風景からスタート。息子(小学校高学年か、中学生ぐらい)がちょっとミスっただけで、親父はいきなり怒号を上げて怒りまくる。「そんな球を捕れなくてドーする!」「このヘタッピィめ!」とか何とか、思いっきり息子を怒りまくり、ちょっとした星一徹と息子の飛雄馬のような、厳しい野球親子って感じのシーンが展開されるのでした。

でも、お母さんが、「もうそろそろご飯だから、二人とも家に戻って」と言ってきても、「バカ!帰れ!」と一蹴。息子とのキャッチボールが、今度はバッティング練習に変わっても、まだまだ終わる気配を見せず、息子のちょっとししたミスを見ては、怒号を上げてけなしまくるお父さんの表情は、息子を厳しく鍛え上げる頑固親父というよりも、ほどんど悪魔同然になっていて、その頃からムードは一変。あまりに自分の事を怒りまくる親父に対して、遂に息子がブチ切れた! 持っていたバットで、親父を思いっきりブチのめす。何度も何度も、打ちまくる。という、最近でもよく見掛けるシーンが登場。これはもしかしたら、現代社会の若者たちの怒りの根元を描いた映画なのか、ナンて、まぁ、そんな事は絶対にある筈もないのですが、そんなシーンが冒頭で描かれるこの映画、ハッキリ言って、ナンとナンと、この映画はそこで終わってしまうのでした。

イヤイヤ、本当はもっと続きますよ。だってパッケージには77分って書いてあるんですから。実際にドラマはまだ1時間ぐらい続きます。でもネー、こっちが期待した、或いは予想した、つまり観たいと思っていたシーンは、そこで終わってしまうんです。マジで。

じゃあ、後は、どんなシーンが続くのかというと、チンケなマイナーリーグの試合が行われたと思うと、試合終了後に、その球場の中で繰り広げられる人間ドラマが主体。メジャーリーグ行きを希望していたジョニーという選手が、もう使い物にならないからと、球団から引退を勧告され、「頼むから、そんな事を言わないで」とオーナーやコーチに懇願しまくるドラマが展開するという、オイオイ、パニック・ホラーはどうなった! と、思わず叫んでしまいたい気分になる事200%。よせばいいのに、ドラマはその後も延々と続いて、試合が終わってオンナとイチャついている選手や、試合が終わっているのに、まだ実況席にいるアナウンサーと解説者、それに練習道具を片づけているコーチや、グランド整備の掃除のオジサンなどが登場したかと思うと、そんな所へいきなり、キャッチャーマスクを被った殺人鬼が登場。で、さっき挙げた人たちが次々と殺されてしまうという、『13日の金曜日』タイプのお定まりの殺人鬼ホラー・モードに突入。するのはイイんだけど、オイ、ちょっと待て。ホームに滑り込んできた相手チームの選手を殺すシーンって何処にあるんだ? ホームを死守する為って言っていたんじゃなかったっけ? 大体それって、試合中の話なんでしょう。なのに、試合が終わった後の球場の裏でヒッソリと展開される殺人鬼ホラーって、そんなんが観たくてこれを観たんじゃないやい! 僕は試合中に殺人が起こるのが観たかったんだ。だからパニック・ホラーじゃないのか? ナンて文句を言っている間に、映画は終わってしまいました。

結局の所、宣伝マンにマンマと騙されてしまったという事であります。多分、雑誌で紹介していた人も、本編を観ずに、パッケージのキャッチコピーだけを見て推測したんでしょう。全然違う事が書かれてあるんだもん。反則もイイとこである。ナンか、昔、ビニールで包まれたエッチ本(通称ビニ本)を買ってきて、いざビニールを破って中身を見たら、表紙の美少女とは似ても似つかぬオバハンが、セーラー服を無理矢理着せられてポーズをとっている写真ばかりなのを知った瞬間、思わず「騙された!」と叫んでいた自分の事を思い出してしまって、ちょっと懐かしい思いにかられてしまったのだが、バカヤロー、そんな事を言っている場合ではない事に気付き、冷静になって考えてみると、全くもって腹立たしい事である。

僕がオープニング・シーンだけで、そこで映画が終わってしまったと言った事、分かって頂けたでしょうか。期待した、試合中にキャッチャーが相手チームの選手を殺しまくるシーンなんて、全然出てこないんだから、これはもう詐欺同然だと言ってもいいでしょう。嘘つき!

これをレンタルで観た人が、あまりに怒って、返却時にレンタル店員をバットで殴り殺す事件が、方々で頻繁に起こっているという事がないように、今は祈りたいものでありますが、実際に観たら、そうしたいという気持ちがニョキニョキと湧いてくるのは、確かです。

因みに、オープニング・シーンに登場する親父を演じているのは、ジョー・エステベスといって、あのマーティン・シーンの弟さんで、という事は、チャーリー・シーンやエミリオ・エステベスの叔父さんという事になります。いくら仕事がないからといって、こんな映画(パッケージにはアメリカ映画と書かれていますが、実際はブラジル映画です。これも嘘つき!)に出るなヨ! 

で、この映画観たい人、いますか? かなりの忍耐と勇気が必要になりますが、かなりの暇があって、相当我慢強い人は、チャレンジしてみては、いかがでしょうか。

 

※ 次回は、もっとヒドい映画のビデオをご紹介する予定です。お楽しみに。

   

          

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