ビデオよもや!?話

 

第10回特別企画

 

『A*P*E』

 

 遂に第10回目を迎えてしまいましたこの「よもや!?話」ですが、今までは日本でビデオ・リリースされている作品ばかりを取り上げてきましたが、今回は第10回記念の特別企画と致しまして、日本でリリースされていない作品の中から、セレクトしてお送り致します。

 で、今回取り上げたのが、上記の『A*P*E』という作品です。日本では未公開&ビデオも未発売の作品です。

 1976年に製作されたリメイク版『キングコング』は、当初、娘の一言からリメイクを思いついたディノ・デ・ラウレンティースと、オリジナルの33年版の権利を正式にゲットしたユニヴァーサル映画との間で、どちらが映画化するかという問題でモメて、遂に裁判沙汰にまでなりましたが、そのモメている間に手っ取り早く作られた『キングコング』のイミテーション映画が何本かありました。

 その内の1本が、昨年やっと劇場公開された『クイーンコング』で、ずっと封印されていたままだったのは、やはり、正式にリメイク権を得たラウレンティースから訴えられたとかで、イタリア本国でも、公開されていなかったと言われていました。

 その『クイーンコング』はイタリア製ですが、そのイザコザの合間に、韓国で作られたのがこの『A*P*E』です。実際は韓国とアメリカとの合作という形になっているようですが、どうやら、韓国で作ったものを、アメリカのジャック・H・ハリスというプロデューサーが買い上げて、そしてアメリカで公開したというような経緯になっていて、まぁ、だからほとんど韓国映画と言ってもいいでしょう。

 あの『シュリ』のヒット以来、日本でも韓国映画がブームになっていますが、もしこれが公開されていたら、日本で公開された韓国映画の、記念すべき第1号になっていたかも知れず、誠に残念な事をしたものだと、まぁ、誰も思っていないでしょうけど、これを観た僕でさえ、そんな事をしていたら、韓国映画の汚点となって、『シュリ』も『JSA』も公開されていなかったんじゃないかと思うと、未公開のままで終わっていてよかったと思います。

 だって、こんな映画、一体誰が観るというのか! アッ、僕か…。

 それ程酷いんですよ、この映画。『クィーンコング』は、元もとパロディとして作られているから、コメディ映画として笑えるシーンがあっても当然ですが、この映画の場合は、ハッキリ言って、コメディでもパロディでも何でもなく、マジで、本当にマジで作られているのが、ある意味凄く恐ろしいです。

 メイン・タイトルが終わった後、見るからにオモチャの船が海に浮いているシーンから始まります。甲板でダベる船員たち。と、そこへ、何の前触れもなく出現する、巨大猿人! ヒョイと船に触れただけで、船は大爆発! と、そこへ、これまた何の前触れもなく、そしてあのジョン・ウィリアムスのテーマさえ流れずに登場するのが、巨大ザメ! それを見るや、サメを抱えて振り回す巨大猿人! そう、これが噂でのみ有名だった、“キングコング対ジョーズ”の対決シーンであった!!!!

  

これ、絶対オモチャですよね。それが10秒後には、大爆発。

 

これが有名な“キングコング対ジョーズ”の迷場面。巨大猿の大きさが推定30メートルだとすると、サメの大きさは一体…?

 

重たい猿の着ぐるみを着た上に、プールで死んだサメを振り回さなくてはならないスーツ役者さんも、大変です…

 

 確かに設定上は、海で戦う巨大猿と巨大(?)ザメという事になっていますが、観たところ、どうみたって、死んだ子ザメを抱えて振り回しているだけにしか見えず、これなんてまるで、『エド・ウッド』でマーティン・ランドー扮するベラ・ルゴシが、動かないタコのハリボテ相手に、沼で一人もがいていたような、そんな絵にしか見えませんでした。

 ウン…、そう考えるとこの映画、もしエド・ウッドが生きていて、『キングコング』のエクスプロイテーション映画を作ったら…? という発想をした場合、こういう映画が出来てしまうかも知れず、そう考えると、これから以後、映画を観ていても、気分的に楽になりました。

 先程の“キングコング対ジョーズ”の決着は、勿論コングの勝ちで、ま、そこで負けていれば、この映画はそれで終わってしまう所なんでしょうけど、ある意味、それで終わっていた方が、よかったとも言えるでしょうか…。大体、そのシーンだけで、後の展開は読めて来ますよね。

 で、その後のストーリーはというと、港から難なく韓国へ上陸したエイプは、工場地帯を破壊し、村を超えて山をまたぎ、徐々に都心へ迫ってきます。途中、空き地(!)でカンフー映画の撮影を行っている撮影隊に出くわしたエイプさんですが、カンフー役者たちが、弓矢や丸太で攻撃してくるのを、ホイホイと交わしてしまうという芸当を見せたかと思うと、何気にハングライダーをやっている人を見つけては、お手玉にして遊んだりとか、或いは、木にブラ下がっていた巨大ヘビを、ただ単に投げ捨てたり(おいおい、戦えよ!)という珍場面を見せてくれて、まぁ、退屈する事は一切ありません。もう、とにかく、場内は爆笑の渦です。因みに観客は僕一人でしたが…。

 

カンフー映画(?)撮影中の役者さんたちがエイプ出現を見て、持っていた武器(?)でいきなり攻撃をします

 

やたら画面に向かって弓矢を放つので、何故かと思っていたら、何とこの映画、オリジナルは3−D映画だったんですね。だから、なんでしょう。しかし、この丸太攻撃は、この後のシーンが全く見当たらないので、どうなったかは不明。その後、エイプが生きているところをみると、全然効果が無かったんでしょうけど…。これも、画面に向けている所をみたら、やはり、3−D効果を狙ってるような…。

 

飛んでいるハングライダーを捕まえてお手玉にして遊ぶエイプさん。妙に浮かれてます。

 

アッ、木にヘビが!と思ったら、即座に捕まえて、一体どうするのかと見ていたら、何の事はない、ただ前へ投げ捨てただけでした…。戦うんじゃないのですか…!? エイプさん

 

 一方、人間側の主役はというと、ハリウッドから映画撮影の為に韓国を訪れた金髪女優さんと、その恋人のジャーナリストのお二人さん。当然の事ながら、この金髪女優さんが、『キングコング』のジェシカ・ラングと同じく、この映画のヒロインという設定になっています。でも、何故だか、撮影シーンは、レイプ・シーンばかりっていうのには笑ってしまいました。一体、何の映画を撮っているんだか…。もしかして、ポルノ女優さんなのかも…? その割には、セクシー・ショットが全然ないっていうのは、一体どういう訳なのか! って関係ないとこで怒ったりして…。

 

 

空港で、報道陣に囲まれる金髪女優さん。と、思ったら、みんなの見ている前で、恋人と濃厚な接吻をかわすオープンな人。さすが!

 

撮影シーンその1。何とレイプ・シーンです。で、カットの合間に、また恋人と熱い接吻を交わしますが、何も撮影現場でやらなくったって…。

 

撮影シーンその2。またレイプ・シーン。その後、遂にエイプ君に捕まってしまいます。

 

 で、本家の『キングコング』同様、エイプに捕まってしまった女優は、軍隊の攻撃中に、一旦は、エイプの手から逃れますが、その後、町中の友人の家に居るところを、再びエイプに略奪されてしまいます。やはりこの辺りは、猿は金髪好きという“猿界の掟”みたいなものでもあるのでしょうか。しかし、『キングコング』の時ほど、二人の間に微妙な愛情表現みたいなシーンがないのは、単にこの映画が手を抜いているからだと思うのですが、それだと、ヒロインとしての役割の意味が、全く無いと思うのですが…。

 それに、ヒロインがポルノ女優という設定なら、せめて、エイプがレイプするシーン、なんのがあって欲かった気も、しないではないような…。

 

女優を手に持って歩くエイプ。大きさがあまりに違いすぎるような…そして、噂で有名だった、エイプの中指立てシーン。攻撃してくる軍隊のヘリを叩き落とした後に、見事ポーズを決めます。

 

 町を破壊し尽くした後は、再び軍隊の総攻撃を受けるエイプ君。という訳で、映画のクライマックスは、エイプ対軍隊との激しい攻防戦が描かれます。

 が、何も武器がないエイプは、その辺に転がっている岩(大きな石?)を拾って投げては、戦車やヘリコプターに当てるという、超原始的な作戦に出ます。まぁ、猿の能力ってのは、これぐらいが限界なのでしょうけど、これはこの映画を作っているスタッフの能力の限界なのかも…?

 

左は村から町へと移動中のエイプ君。見難いかもしれませんが、牛(の置物?)をまたいでいる所です。右側は、着ぐるみ怪獣映画ではお馴染みのミニチュアワーク・シーン。この映画の中で、唯一ホッとするシーンかも…。

 

逃げまどう人々のシーンも、この種の映画には付き物のシーンですね。でも…

 

エイプの足下に来るまで、そこに居る事が分からないなんて…。コイツらみんなアホです。

 

岩を拾っては投げつけるエイプ君。でも、崖の上から石を投げている猿の恰好をした人を、ただ、写しているような…。特撮ゼロ…。

 

ここでも3−D効果満点です。但し、何度投げても、同じカットの繰り返しですが…。

 

おっと、これはヤバい! 岩の上に何かが見えてます…。 

 

 岩投げ作戦という健闘も空しく、最期は、軍隊の攻撃に負けて、ズタボロになって死んでいく哀れなエイプ君。それを見て悲しみにくれるヒロインという、この辺りも、『キングコング』をそのまま踏襲していますが、この映画の場合、何故ヒロインが泣くのかは一切不明。もしかして、嬉し泣き

 それと同時に、エイプが何故、こんなに町や村で暴れたのかという事も、これまた一切不明。ま、コッチの方が大問題な訳ですが、科学的な理由がある訳でもなく、ただ、ムシャクシャしていた…という、ただそれだけの理由かも知れないというのが、何だか考えてみれば恐ろしい気がします。第一、そんな理由じゃあ、その辺にいるタダのヤカラじゃないですか。猿の理由なき反抗、だなんて、昨今のテロよりも恐いですね。

 

これがエイプの哀れな末路。画面に向かって血を吹くだなんて、いかにも3−D映画らしいエンディングです。

 

 因みに、怪獣映画でありながら、合成シーンは全くありません。僅かに、二重露光撮影しているシーンが、3カット(時間にして2〜3秒ほど)あるだけで、後は一切ナシ! 作られたのは1976年ですが、当時の素人が作った8ミリ映画でも、多重露光による合成特撮シーンは、ナンボでも出来たでしょうから、この映画は、それよりも劣るという事になります。

 

この3カットが、数少ない合成シーン。単純な二重露光の為、エイプが真っ黒になっちゃってます。誰か教える人はいなかったのでしょうか…?

 

 でも、そんな技術は持ち合わせていなくても、こうして立派(?)に1本の映画が出来てしまうんですから、これも映画のマジックでしょうか。面白ければそれでイイ。という、誰か(誰や?)の言葉が聞こえてきそうですが、でも、面白くないんですけど…

 案外、あのエイプのポーズは、劇中の軍隊にではなく、我々観客に向けてやった事なのかもれません。と、いう意味では、観客をバカにしまくったバカ映画という事になりますね。どうも、それが結論のようです。

 最後に重要な事を一つ。エンド・クレジットに、ディノという役名(もしかして、『キングコング』のプロデューサー、ディノ・デ・ラウレンティースの事…?)が出てくるのですが、これってもしかしたら、このエイプの名前かも知れません。しかも、演じているのは、監督(ポール・レダー)自身。まるで『シュロック』で、自分で猿人を演じたジョン・ランディスのようなヤツです。という事は、この下のエイプは、監督だという事になりますね。見事、バカにされてしまったようです…。

 

イイものを見せてやったろ。じゃあな、アバよ!

 

 

          

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