ビデオよもや!?話


第2回  『ゾンビ’99』

                       

 今回ご紹介するのは、昨年の夏に突如リリースされたゾンビ映画です。題して『ゾンビ’99』。サブ・タイトルに“THE END OF A CENTURY”、即ち“世紀末”と付けられていていますが、本当の原題は“Sexy Nights of the Living Dead”で、ようするに“生ける屍のセクシーな夜”でありまして、これは例のゾンビ映画の古典的名作『生ける屍の夜』、別題『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』のポルノ・パロディ版である事は、ある程度のマニアなら判るというもの。ようするに、“ちょっとエッチなゾンビの夜”ってとこでしょうか。
 この映画のビデオのパッケージを見たところ、“ゾンビ対エマニエル!?”ナンて文字が書かれていて、一瞬何の映画なのか、理解に苦しむ所がありますが、実は実はこの映画、知る人ぞ知る、“ブラック・エマニエル・シリーズ”の番外編だったんです。“ブラック・エマニエル・シリーズ”なんて、余程のマニアぐらいしか知らないシリーズで、日本ではその何作目かに当たる『猟奇変態地獄』が劇場公開されただけで、しかしまた『猟奇変態地獄』ナンて、何ちゅう題名やと思ってしまうのてすが、当時(79年)の日本では、あくまでもポルノ映画として公開された訳ですから、それも当然でしょう。因みにその映画、ビデオでは『アマゾンの腹裂き族』というタイトルに改題されてリリースされています(現在絶版)。


 

これが『アマゾンの腹裂き族』のタイトルでリリースされている『猟奇変態地獄』(ナンちゅう、タイトルや) そしてコチラが、“褐色のエマニュエル”ことローラ・ジェムサー嬢!

      

 そのタイトルから判る通り、いわゆる人喰い人種の活躍を描いた俗に云う“人喰いもの”で、『食人族』『人喰族』が日本でも公開され、また、何本ものその種のジャンルの未公開作品がビデオで出ているので、結構色々人気があるジャンルだと思うのですが、果たしてその『猟奇変態地獄』(『アマゾンの腹裂き族』)という作品、観られた事がお有りでしょうか。もしそれを一度でも観ていたなら、話が早いのですが、まぁ、ボチボチ行きましょうか。
 エマニエルと言えば、日本でも公開されて大ヒットした、例の『エマニエル夫人』を思い出しますネー。シルヴィア・クリステルがエマニエルを演じて、ファッショナブル・ポルノとかいわれて女性客をも集めて大ヒットしたあの作品。その後も『続エマニエル夫人』『さよならエマニエル夫人』と作られ、挙げ句の果てに『エマニュエル』(小さい“ユ”がタイトルに入っている点に注目)では、クリステルがオバサンになってしまった為、オープニングで整形手術をして、何と、若いエマニュエルに生まれ変わったという設定(演じているのはリア・ニグレンという女優さん)で、またシリーズは続いていったのでした。
 で、実はそのシリーズの2作目に、端役で出演していたのが、ローラ・ジェムサーというインドネシア系の女優でして、バッタもん映画の本場イタリアで、彼女主演で『愛のエマニエル』を製作、当然本家のソフトさとは全く違った、ポルノ映画ばりの作品になっていましたが、ここで注目すべきはその原題です。“Black Emanuelle”即ち、“黒いエマニエル”な訳ですが、本家のエマニエルが“Emmanuelle”なのに対し、ブラック版は“m”の数が1個だけ少ないという、反則スレスレの有様で、そこがまぁバッタもんの王道を行くイタリア映画界の成せる技だったという訳でした。
 で、今度、そのバッタもん魂に火がついてしまったのが、やはりイタリアでバカ映画ばっかり撮っていたジョー・ダマトという監督で、さらに彼女主演で勢いで作ってしまったのが、先程述べた“ブラック・エマニエル・シリーズ”。『バンコクのエマニエル』を筆頭に、『アメリカのエマニエル』『エマニエル対女性虐待』『エマニエルと白人奴隷売買』(以上、全て未公開)と連発、その次に作られた『エマニエルと最後の食人族』が、日本では『猟奇変態地獄』として、公開されたという訳だったのです。バカですネー、全く。
 で、ここから本題に入ります。これまでの長い前フリに付き合ってくれてありがとう。今回のこの作品、そのジョー・ダマト監督が、またまたローラ・ジェムサーを主演に撮った新作、かと思いきや、実は邦題には“99”と付けられていますが、実際の製作年度は1979年と、何と20年もサバを読んでいた訳で、これも一種の詐欺でしょう。ビデオ会社をJAROに訴えようなんて考えている人は、まぁちょっと待って下さい。
 今回ジェムサーちゃんが扮しているのは、エマニエルではありません。断っておきますが、彼女がそれまでに主演していた一連の“ブラック・エマニエル・シリーズ”での役所は、エマニエルという役名の新聞記者で、決して夫人、つまり人妻ではありませんでした。まぁ、やってる事は本家のクリステルさんとあまり変わりありませんでしたが。
 映画はまず、豪華ヨットで、ある島に渡ろうとする3人の人間が登場する所から始まります。実は、その前にオープニング・シーンがあるのですが、それはこの映画のアッと驚くドンデン返し(?)と関係あるので、取り敢えず無かったものとして話を進めます。一人はそのヨットの持ち主で、人に貸してヨットを操舵しては金を稼いでいるというプレーボーイ風の男。もう一人は、早速町で女を引っかけてきたばかりの金持ち風のオッサンで、その女と共に、島へバカンスに行くのですが、実はオッサンの目的は、女とイチャイチャする事も大事だが、もう一つ重要な仕事を抱えていて、それは、今から行くキャット島という島を既に買い取っていて、その下見に行くというもの。つまり、趣味と実益を兼ねたバカンスだという事ですネ。
 誰に聞いても、そのキャット島という言葉だけで恐れられてしまい、果たしてその島に何があるのかというのが、この映画最大のポイントで、実際に彼等が旅立つ直前に、一人の男がゾンビに食い殺されるという事件が勃発。おまけにその死体を解剖しようとした医者が、これまた生き返った死体=ゾンビに食い殺されるというシーンが展開するのですが、そんな事を知らない3人は、いざキャット島目指してヨットで海に出たのでした。
 と、ここまで書けば、よくあるゾンビ映画で、島が舞台になっている所なんぞ、あのゾンビ映画の最高峰『サンゲリア』に雰囲気がよく似ていて、まぁ確かにどちらもイタリア映画だし、マネがマネしたのかナなんて事も思ったりしたものですが、それから約1時間というもの、映画の中では何も起こらないのでした。
 起こらないといっても、3人の男女が織りなす、いわゆるエッチなシーンは随所に描かれている訳で、そういうのを好みの方には飽きが来ないというか、それでも描写はソフト過ぎて、最近のAVを見慣れた目ではたいした事ないと言われるかも知れず、取り敢えずストーリーを進めると、その島は、以前漁港があったのだが、何かの事件で焼き払われてしまった為、今は無人島だと説明されるのですが、何故か島に着くと、そこには老人とその孫娘が住んでいた事が判明、その娘に扮しているのが、ローラ・ジェムサーだったという訳。
 その二人が揃って、「この島から出ていけ!」と、来島した三人を脅すのだが、そんな事よりもその島をリゾート地にしようと必死のオッサンは、それを聞き入れなかった為、早速ゾンビの餌食になってしまいました。って、ここまで書いていて、ハッキリ言ってストーリーが全然判らないじゃないかと思ったのですが、実際に観た人でも判らないように出来ているんですから、ちょっと勘弁を。
 映画が始まって1時間15分は経とうかという時に、やっとそのゾンビに襲われるシーンがやってきて、さぁこれからゾンビ対人間の戦いが始まると、本気で『サンゲリア』(やっぱりソックリだと思う)のようなシーンを期待していたら、何の事はない、出てくるゾンビは全く元気がなく、確かに死体だから、あまり元気がイイのも困るけど、やっぱりもっとイキイキとしてくれなきゃ、恐怖感も何もあったもんじゃない。それにゾンビ・メイクもイマイチいい加減に作られているようで、『サンゲリア』のグロテスクぶりに比べると、月とスッポンって感じで、ゾンビ・ホラーとしてはもう一つだナー、なんて思っている間に、残った二人もゾンビ軍団に囲まれて、武器が何もないものだから、松明に火を点けてゾンビを退治しようとするのだが、墓場から蘇ったゾンビたちは、一向に衰えを知らず、遂には………。
 この後は、ハッキリ言って仰天シーンが展開されます。もうそれは怒りを通り越して、笑うしかないというか、今まで僕たちが観ていた映像は、一体何なんだー! と文句の一つも言いたいような、そんなシーンで締めくくられていまして、やっぱりこの映画、バカ監督ジョー・ダマトならではの映画だと言えるのでしょう。
 因みに、この映画、ハッキリしておかないといけないと思うのですが、ゾンビ登場によるスプラッター・シーンと、その合間・合間に展開されるエッチ・シーンとの比率は、大体2:8ぐらいですから、もしこれから観ようかと思う人は、覚悟を要します。というか、こんな映画、観たい人、いますか? ではまた、次回で会いましょう。今度はもっともっとヒドい映画を予定していますので、お楽しみに。

 

           

inserted by FC2 system