ビデオよもや!?話

 

第4回 『サスペリアPART2/完全版』

 

 

  今頃『サスペリアPART2』というのもおかしいですが、今ビデオでリリースされている“完全版”と称するものを観た以上、やはりここで取り上げなければならない使命というものを感じた為、敢えて登場という事になったのでした。

 そもそも『サスペリアPART2』とは、1978年に日本で公開されたダリオ・アルジェント監督作品で、実はその前年、日本では同じアルジェント監督の『サスペリア』が大ヒット。当時それを配給していた会社(東宝東和)が、その勢いに乗って、まだ未公開だったアルジェント監督の、それより古い映画を配給、全然関係ないのにも関わらず、いかにも続編のような『サスペリアPART2』というタイトルを付けて公開したもので、こういう事情は、ちょっとホラー映画に詳しい人なら、もう常識ですよネ。

 それまでアルジェント監督は、60年代後半から70年代前半にかけて、『私は目撃者』とか『歓びの毒牙』とか『四匹の蠅』などの、サイコ・スリラーをひっそりと作っていましたが、さしたる話題に上る事もなく、当時から既に、単なるヒッチコック・モノマネ監督と称されていたものでした。

 ところがそれが、どういう訳か、75年に放った“Profondo Rosso”(『サスペリアPART2』の原題)がイタリアで大ヒット、おまけに、当時はまだ珍しかった、ホラー映画祭のハシリ、スペインのシチェス映画祭でグランプリを獲ったりしたものだから、イタリアを代表するホラー監督の一人として著名になり、その翌年、アルジェント・ファミリーが総力を結集して『サスペリア』を作り、それまた大ヒットしてしまったのでした。

 因みにその“Profondo Rosso”は、“赤い深淵”という意味で、その音楽を収録したサントラ・アルバムは、実はそのままイタリアのプログレシック・ロック・グループのゴブリンのデビュー・アルバムでもあり、そのアルバムにはアルジェントもコラボレートとして参加していて、当時から彼等は密接な関係があった事を思い起こさせるが、その次の『サスペリア』の音楽もゴブリンが担当。そのヒットによってゴブリンの一躍スターダムにのし上がったのでした。

 で、日本では遅れて公開された『サスペリアPART2』、続編じゃないのにこんなタイトル付けやがってと、いつもの東和戦術をほくそ笑んでいたのだったが、観てビックリ、前作(といっても、関係ないですけど)のコケオドカシのお化け屋敷映画とは違って、結構正統派のサスペンス・スリラーになっていて、しかも殺人シーンが残酷で妙にシュールという、なかなか凝った映画になっていたのには驚きで、『サスペリア』でさんざん貶したアルジェント監督を、ちょっとは見直したものでもありました。

 ま、基本的にはこの『サスペリアPART2』、『サスペリア』以前にアルジェントが撮り続けていた、いわゆるサイコ・スリラーものの路線なのですが、それまでのヒッチコック・モノマネ・タッチは影を潜め、その変わり、一見やり過ぎとも思える残虐な殺人シーンを羅列する事により、ストーリーの方向性をも狂わせてしまうという、いわばアルジェント自らのタッチに変貌、それが功を奏し、残酷とミステリィとが渾然一体となった、傑作に仕上がっていたのは、これは周知の事実。

 ハッキリ言って、『サスペリア』のキャッチフレーズであった“決して一人では観ないで下さい”というコピーは、この映画にこそ当てはまるのではないかと思える程の恐さも十分にある作品で、未だにこの映画を、アルジェント監督のベスト作品と呼ぶ人が後を絶たないという現状が、それをよく物語っていると思われます。

 というのも、アルジェント監督はその後、『インフェルノ』『シャドー』『フェノミナ』『オペラ座/血の喝采』『マスターズ・オブ・ホラー』と、ホラー作品を連発したものの、誰がどうみても、この『サスペリアPART2』を越える作品は1本もないという有様で、現在に至っている訳で、まぁ言ってみれば、この映画1本きりの、いわゆる“一発屋監督”だったとも言える存在だと言え、その後の作品は、『サスペリア』を含め、単なる惰性でしかないと、そう断言してもいいような、それ程の傑作だった訳ですネ。

 さて、そこで、前置きが長くなりましたが、この“完全版”の内容についてなのですが、なにせあのアルジェントの事、このイタリア公開版とも言える“完全版”には、さぞかし残酷なシーンが、あの日本公開版にあったものよりも、さらに過激な残虐な殺人シーンが挿入されているのではないかと、誰だってそう想像しますよネ。

 ところが、これが何ともまぁ、逆の意味で驚いてしまった訳ですから、ホント、アルジェントさんには騙されましたワ。日本での劇場公開版が108分で、この“完全版”と称されたものが127分と、何と19分も長くなっていて、そこだけをみると、確かにこれが、いわゆる今で言う“ディレクターズ・カット版”って事は誰の目にも明らかというもの。

 で、実際に観始めると、オープニング・シーンに主人公(デイヴィッド・ヘミングス)であるピアニストの演奏シーンが追加されていて、いかにもヴァージョンが違うといった趣でスタートする訳ですが、それから以後、全編通して鑑賞してみた結果、ハッキリ言って、これという程の増えている(追加されている)シーンというのは、ほとんどなかったような気がしました。

 というか、残虐な殺人シーンや、ドキっとするようなサスペンス・シーンなんかはそのままで、例えば主人公と、共に事件を追っている女性記者との普通の会話シーンとか、或いは、これまた事件を追っている刑事が放つ、何とも寒いジョークや会話シーンなどは、確かに劇場公開版や、以前リリースされていたビデオやLD版にはなかったシーンで、それらが増えているという事は大いに判るのですが、結局観終わって気が付いたのは、追加されたのが全て、単なる会話のシーンばっかりで、期待していたもっと残虐な殺人シーンや、恐いシーンなんかは全くナシという結果で、何ともまぁバカを見たと、そういう事だったのでした。こんなのアリでしょうか?

 これってもしかして、要らないからカットされた、不要なシーンばっかりを寄せ集めたという、ナンか、どうでもイイようなヴァージョンにしか思えず、ハッキリ言ってこんな事だったら、こんなシーン要らなくてもイイと思いました。大体、みんなつまらない退屈なシーンばかりで、そのお陰で、映画のテンポすら失われているって感じがし、確かにこれだと、カットされてもしょうがないと思います。

 つまりこの“完全版”とやら、捨てられたゴミを追加して作られた、本当は“不完全版”で、単に時間が長いから“ディレクターズ・カット版”だと思いこんでしまった、いわば詐欺的な作品。これだったら、リリースしてもらわなくてもよかったと、おそらく、観た人の98%ぐらいの人は思った事でしょう。いや、多分100%か。

 せっかく楽しみに期待して観たのに、こんなんだったら要りません。僕は既にLDで前のヴァージョンを持っていて、もし“完全版”が手に入ったら、ソッチの方は要らないナーと思ったりしていたのですが、それがトンでもない間違いだったという事が、観終わって2秒で判明しました。実際、さっきも言ったように、ストーリーのテンポとしては、不要なシーンがカットされた前のヴァージョンの方が絶対にイイ訳で、故にソッチの方を完全版としたい所。逆に“完全版”の方が要らないようになってしまいました。トホホ。

 まぁこういう事は、何もこの映画だけじゃなくて、例えば『ニュー シネマ パラダイス/完全版』だとか『セーラー服と機関銃/完璧版』だとか、時間が長くなると逆に臣白くなくなってしまう映画というのが、他にもチラホラとあるようで、だから今に始まった訳ではないのですが、結局何て言うんでしょうかね、それらの映画というのは、単なる監督の悪あがき作品とでも言うのでしょうか、何か、スッキリしないものがありますネー。しかし、完全版なのに逆につまらなくなるというのは、これは監督として、失格だと思うのですが……・。

 という事で、これから御覧になろうとしている皆さんには、ここでハッキリ「観なくてもイイ!」と、断言したいと思い、一人でも多くの人に、この真実を知って貰いたい為に、今回この作品を取り上げた次第でした。でも、一度観てみたいと仰る方がいましたら、是非連絡して下さい。不要になったこのビデオ、プレゼントしたいと思いますから。だって、以前から持っていたLDで、十分なんですから。

 

これがLD版ジャケット。これがあれば、完全版なんか要らない!

 

因みに、『サスペリア』の正式な続編が『インフェルノ』だ!

 

 

          

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