ビデオよもや!?話

 

第7回 『ジャガーbP』

 

久々に登場した「ビデオよもや!?話」ですが、今回取り上げるのは、昔懐かしい『ジャガーbP』という映画。中古ビデオ店で、980円で買った代物ですが、元々は2800円の値段が付けられていたこの作品、こんなつまらん映画に、2800円も払えるか! と思い、全く買う気など起こらなかったのですが、ずっと1年ばかり、その中古店で誰にも買われずに過ごした後、ふと訪れると、ナンと値段が980円にダンピングされていました。これはもしかすると、僕に「買え!」という暗示なのかも知れないと思い、取り敢えず(つまらない内容なのも忘れて)、ついつい手が出てしまったものでした。

因みに、その980円の値札の下には、「1480円」、そして「2800円」の値札シールが貼られてあり、これが2度目のダンビング価格だったという事が判明しました。もしかして、もう少し待っていれば、「500円」の値札が貼られていたかも知れず、タイミングが問題だったのですが、まぁ、1000円以下なら、お買い得かと思い、決心したのでしたが、いざ、このビデオを観てみると、トンでもない事になったのでした。

まず、問題が2つ。最初の一つは、パッケージ(昔懐かしい、紙製のパッケージ)の裏に“このビデオテープの画面は劇場用映画と同じビスタ・サイズです。”と書かれてあった事。ほぉ〜、ビスタ・サイズのワイド版なんだと、一瞬喜んで再生したものの、始めから終わりまで、ずっとスタンダード・サイズ、つまり1.33のテレビ・サイズのままの画面でした。これの販売元である松竹ビデオは、ビスタとスタンダードの違いを分からないのか、と思ってしまったものですが、よ〜く思い出してみると、同じ社の『ファイナル・カウントダウン』にも、同じような事がパッケージに書かれてあった事があり、実際のビデオの画面はスタンダードだったので、結局この会社の初期(おそらく、80年代中盤)の作品には、みんな同じような事が記されていたのだろうと思いました。しかし、こんな初歩的なミスが、昔は堂々とまかり通っていたのだから、実にいい加減な時代だったという事なんでしょうか。

問題の2つ目。画面サイズがスタンダードなのはイイとして、字幕スーパーが、一昔前の劇場と同じ、画面に向かって右横に、縦に出るものだった。まぁ、昔から映画を観ている人は、既に慣れっこになっているから、別に不思議に思わないのですが、その字幕スーパー自体が、新たにビデオ化時に入れたものではなくて、最初からフィルムに焼き付けられているそのままの字幕になっていたのでした。つまり、マスター・ネガからテレシネに掛けてビデオ化したのではなく、劇場公開版のポジ、若しくはネガから、テレシネに掛けてビデオ化したものだと思われ、だから劇場版と全く同じ字体・同じ映り方をしていたもので、これをテレビの画面で観ると、ひじょうに見難いんですネ。特に、白い物が背景になった時なんて、何が書いてあるのか、全く分からない状態で、そんな字幕の見えないシーンが、都合20カ所以上あったと思われます。(いちいち数えていられなかったので、あくまで推定ですが…)

因みに、同じ松竹ビデオの初期の作品『バニシングIN60”』や前述の『ファイナル・カウントダウン』も、やはり劇場公開用フィルムそのままの字幕でビデオ化されており、この映画だけじゃなく、当時リリースされていた松竹ビデオ作品が全てこのスタイルだったようです。

その二つの問題点からして、既に観る意欲が薄れたというものですが、それでも映画が面白ければ、別に問題無いなぁ〜という事だったのですが、そうは問屋が卸してくれませんでした。ハッキリ言いましょう。全然面白くないんです、この映画! そんな事は、劇場で観た時から既に分かっていた事だったのですが、今回久々に観て、益々その思いが強くなってしまいました。

パッケージに書かれてあるキャッチコピーからしてトホホな感覚が漂っています。“ブルース・リーを打ち破る凄い奴が現れた!” となっていまして、誰が見ても、そんな眉唾コピーには騙されないでしょう。主演の“ジャガー”というコードネームを持つ諜報部員(これが全く、何の組織か、最後まで明らかにされない!)に扮するのは、全米カラテ・チャンピオンにもなった事があるという、ジョー・ルイス。チャック・ノリスとチャンピオン戦で戦った事があるという経歴の持ち主で、その経験が買われて映画界入りしたそうですが、出演作は、これと、“Force Five”(ロバート・クローズ監督)という作品しか知られていないという、かなり怪しいお人。顔はそこそこ男前だが、あまりに甘いマスク過ぎて、アクション・スターとしてのカリスマ性に欠け、ファイト・シーンにも全く迫力が感じられない、とにかく寒い主人公。コイツのどこが“ブルース・リーを打ち破る凄い奴”なのか、コピーを考えた人に問い正したい衝動に駆られました。

その寒い主人公に比べて、共演陣は一応豪華な顔触れが揃っていました。主人公に指令を伝達する仲間に扮するバーバラ・バック、主人公にヒントを与える宗呂に扮するジョゼフ・ワイズマン。事件の鍵を握る将軍に扮するドナルド・プリーゼンス。そして、主人公の敵に扮するクリストファー・リーという、みんながみんな、“007シリーズ”の卒業生たち。いわばこの映画、007の同窓会のような顔触れになっていました。

他にもジョン・ヒューストン(監督)ウッディ・ストロードなども顔を見せていますが、みんな通りすがりのような顔見せ出演で、主人公を盛り上げる役には、全く立っていなかったというのが、あまりにあんまり。寒さが余計、身に染みて来ました。多分、これは推測ですが、一応主演のジョー・ルイスより、彼等共演陣の方が、遙かにギャラは高かったと思います。そんな安いギャラで、やってられなかったというのが、ルイスの本音ではあったでしょう。

でも、この映画の問題点は、そんなもんではありません。一番肝心な事は、この映画、ストーリーか全く分からない! という、映画製作に於ける最低限のルールも守られていない事でした。開巻早々、主人公が仲間の裏切りにあって凶弾に倒れ、死んだと思ったら、次のシーンでは全然平気で元気に砂漠で訓練しているシーンになり、そこにバーバラ・バックがやって来て、事件を依頼、ジャガーさんはジャガーに乗らずに、何故かポルシェに乗って、ギリシャ・フランス・中東・ニューヨーク・香港・マカオ、そして東京と、世界各地を転々として、その都度、敵と戦うシーンが展開される訳ですが、その目的が、全然ハッキリしない! 司令部から、ああだのこうだのと、色々意見が出されるのですが、その度に、初めて聞く名前がポンポン飛び出して、「それって誰?」というこちらの疑問を置き去りにして、ストーリーは勝手に展開。我々は何が何だか分からないまま、ジャガーさんが、どこがブルース・リーより凄いねん! というナマクラなアクションを披露するのを、こっちの心が疲労しながら観なければならないという、何ともワケワカな映画になっていました。

以前に劇場で観た時も、確かにしょうむなかったですが、これ程ヒドいとは思ってもいませんでした。こんな事なら、例え980円でも買わなかったのに…と、後悔する事しきりなのですが、最初から最後まで、これ程つまらないアクション映画というのも、ある意味珍しいと思いました。作り手は、007の亜流を目指したのだと思いますが、亜流なら亜流で、モノマネでもイイから、007のように面白いシーンを再現してくれれば、それはそれでよかったと思ったのですが、この映画には、それも全くナシ。007卒業生が4人も揃っていてこの出来とは、彼等の神経さえも疑いたくなってしまいました。トホホ…。

因みに、エンド・クレジットを観ていたら、日本の東京ロケに際して、松竹映画が撮影に協力しているとのクレジットが記されており、ハハーン、だから配給も松竹(富士映画と共同で)がやっていたのかと、納得しました。でも、ジョー・ルイスが撮影の為来日して、話題になったという事など、全くなかったような気が…。それだけ無名の人だったという人なんでしょうけど、本人も結構ツラかったのではないかと推測されます。

それにしてもこの映画、上映時間は97分と短めですが、それがまるで5時間ぐらいに感じられたのは、ホント〜に辛かったです。やっぱり、いくら安くっても、つまらない映画を観るのは、苦痛だナという事を痛感しました。ある意味、イイ勉強をさせて貰ったという事でしょうか。

ホント、シンどかった〜。途中で睡魔に襲われて、眠りに就く事、3回もありました。もしかすると、不眠症時の睡眠薬代わりには、イイかも!? 夜、眠れない人には、是非お勧めしたい映画です。

 

この映画唯一(!)の見せ場である狙撃手の乗った車の屋根に必死にしがみつくジャガーさん。一応、スタントなしでの熱演。ただ、それだけ。この後、20秒後に振り落とされる。トホホ… 

 

強いて挙げれば、もう一つの見せ場である、敵のオートバイ二人組に、跳び蹴りをお見舞いするジャガーさん。得意満面な笑みを浮かべるシーンだが、迫力全然ナシの上、緊迫感ゼロ…

 

『私を愛したスパイ』卒業生(後にゲテモノ化する)バーバラ・バック。アッ、背後から銃で狙われてる! と心配しなくてもOK。こんなシーン、映画の中には全く見当たりませんでした(笑)。パブリシティ・ショットか? それともカット・シーンなのか?

 

因みに、劇場公開時にパンフレットを買っていたのだった…。つまらなかったのに、よくも買ったものだと思うが、今回、久々に見て、パンフの最後のページに、恐るべき事が書かれてあるのを発見。下のが、それである…。

                 

解像度が悪くて申し訳有りませんが、監督のアーネスト・ピントフから、「日本の皆様へ…」と題したメッセージである。左が英文(多分、本人が実際に書いたもの!?)で、右が翻訳文。「ジョー・ルイスは私が監督した中で、掛け値なしに最高のニュー・スターである。『ジャガーbP』では強烈なエネルギーで劇的な登場をし、スペクタクルなスタントを自らやっている。映画は全編アクションの連続で、観客を豪華なキャスティングでワールド・アドベンチャーに誘うだろう! (監督)アーネスト・ピントフ」(原文まま)と書かれており、かなりの嘘つき監督と見た。この監督、名前の通り、ピント外れの演出が得意だと思われます。

 

 

           

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