DVDなんか要らない!

唯一無二! こだわりの1本!

 

 

第1回はだ!

 

 『クラッシュ!』と聞いて、まず貴方は何を思い浮かべるだろうか…。デイヴィッド・クローネンバーグの映画??? それとも来年の正月映画として公開されるサンドラ・プロック主演の映画だろうか…??? トンでもない。B級ホラー映画ファンの貴方にとって『クラッシュ!』とは、1本しか存在しないではないか。そう、あのニュー・ホラー元年と言われた1977年、時はパラサイコ・シリーズがブームにならずにションボリしていた時代、アメリカでは『スター・ウォーズ』(勿論“エピソードW”だ!)が公開されようかとしていた激動の時代、ナンの前宣伝もなく公開され、全くヒットせず、話題にもならず、人々の記憶から葬り去られてしまった1本の映画。それが『クラッシュ!』だ。

 無人の車が人を襲う…という映画は、今となっては沢山ありますな。有名どころでは、リンカーン・コンチネンタルが襲う『ザ・カー』や、プリマス・フューリーが襲う『クリスティーン』。それと、その『クリスティーン』の原作を書いているスティーブン・キングも、『地獄のデビル・トラック』という映画を自分で監督している。今、訂正する。沢山は無かった…。たったの3本だ。まぁ、スピルバーグの出世作『激突!』も、無人カーみたいなものだから、それを入れても4本だ。イヤ違う。もう1本ある。それが今回取り上げた『クラッシュ!』なのである。

 実質的に、『ザ・カー』より半年早く日本で公開されている。製作年度も『ザ・カー』より1年早い。つまり『クラッシュ!』は、この手のジャンルの先駆け的作品になる訳ですな。監督はチャールズ・バンド。後にあのB級SF&ホラー映画を連発する事になるエンパイア・ピクチャーズの創始者のチャールズ・バンドである。因みに弟のリチャード・バンドは音楽家で、エンパイア映画の『ZOMBIO死霊のしたたり』の音楽を担当している。そのチャールズ・バンド兄貴の、数少ない監督作の1本がこの映画である。

 で、どんな映画かと言うと、下のチラシのキャッチコピーを読んでいただければお分かりかと思うが、つまり、突如ハイウェイに無人カーが出現し、パトカーを撃破し、トラックを炎上させ、まるで生き物のように襲いかかる黒いカマロが、目的は何か分からないが、時速200qで怒りの暴走を繰り返すという…、つまりそんな映画だ。以上。

 

 出演はホセ・ファーラーとスー・リオン。知らないとは言わせない。ホセ・ファーラーは名優だっせ。『アラビアのロレンス』なんかに出てましたな。でも『ドラキュラ・ゾルタン』とか『センチネル』とか『スウォーム』なんていう、ゲテモノ映画にもよく出演していて、なかなか嬉しいオッサンではありますな。そしてスー・リオン。キューブリックの『ロリータ』に出ていたお嬢さんといえば、みんな知ってまっしゃろ。他にも『アリゲーター』なんてのにも出てましたな。あと、この手の映画にはお馴染みのジョン・キャラダインも出てましたな。つまり、ゲテモノ・ホラーとしては、申し分ない布陣という事が言える訳です。

 因みに、撮影監督をアンドリュー・デイヴィスが担当していて、この人、その後監督に出世して、チャック・ノリスの『野獣捜査線』『刑事ニコ/法の死角』『沈黙の戦艦』のセガール映画、ハリソン・フォードの『逃亡者』、シュワちゃんの『コラテラル・ダメージ』とアクション映画一辺倒の粋の良い監督さんに成長しましたな。

 という事で、じゃあこの映画が面白かったかというと、ウ〜ン…、それが大した事ないんですな。どちらかというと、その後に作られた『ザ・カー』の方が面白かったようで…。ま、片や(後の)エンパイア映画、一方はメジャーのユニヴァーサル映画という格からして違う訳で、でも、その割には頑張っていたというか、何たって、この手の映画の先駆け的作品ですからね。大いに威張ってヨロシイのではないでしょうか。

 因みに、この映画はテレビ・ムービーだという噂がチラホラ流布されていたようですが、実際この映画、シネマスコープ・サイズの映画なので、レッキとした劇場用映画なんですな。

 て、この映画は、ちゃんとビデオでも出ていたんですな。ま、レンタル店で見掛けた人は皆無かと思いますが、今は亡き(?)パック・イン・ビデオからリリースされていたんですな。

コチラがビデオ・ジャケット。劇場公開時のチラシに負けず劣らず、ど派手なデザインで迫ってくれています。

 

 で、実は面白いエピソードを一つ。この映画が1977年に日本で劇場公開された時の事。我が大阪では、割と大きめの映画館で上映されていた訳ですが、その時の公開直前の新聞広告をご覧になって頂きたい。(下記参照)

 ナンと、タイトル『クラッシュ』の前に“カーCAR”という文字が付け加えられているんですな。つまり、『カー・クラッシュ!』というタイトルである事を示唆している訳です。ンなアホな…。と思われるでしょうが、これホントの話なのであります。しかも新聞広告だけかと思いきや、実際に劇場へ行って確かめてみた所、大阪・梅田の阪急プラザ劇場の看板には、ポスターの上から“カーCAR”と書かれた紙が貼られていたんですな。そう、この映画は単なる『クラッシュ!』ではなく、あくまでも『カー・クラッシュ!』であると、言い張っている訳なのです。ンなアホな…。

 で、こういう事は、大阪で頻繁に行われていたのかというと、そうなんです。頻繁とは行かないまでも、チョコチョコ行われていたんですな、当時は。例えば、同じ様なカー・アクション映画に『バギー・チェイス』ってのがあったんですが、これも公開直前に掲載された新聞広告では、タイトルの前に“暴走!”という文字が付けられたと同時に、上映劇場前の看板やポスターにも、“暴走!”という文字が書かれた紙が張られていて『暴走!バギー・チェイス』になっていたんですな。勿論、パンフや上映プリントには、そんな文字は見当たらない訳でして…。

 

 

 マイク水野(映画評論家&映画監督)氏の書籍で、その昔、同じ映画でも、東京と大阪では、違うタイトル(邦題)で公開された事があった…というのを読んだ事がありますが、まぁ言えばそれに似たような感じでして、これってやっぱり、ちゃんと配給会社の主導権の元で行われた事だったんですかね〜。因みに『クラッシュ!』も『バギー・チェイス』も、両方とも日本ヘラルド映画配給ですな。ヘラルドも、東和同様、当時は色んなテコ入れをやってましたからねぇ〜。

 因みに、大阪で公開する場合、より過激なタイトル(エロ・グロ調で…)にした方が受けるらしいです。そういえば、その昔、テレビで放映された映画番組の視聴率調査を、自主的(単なる趣味で…笑)にやっていた事がありましたが、例えば動物パニックものとかホラー・オカルトものなんかの場合、確かに関東より関西の方が、視聴率は若干高かったように思います。やっぱり、“好き者”が沢山住んでいらっしゃるという事ですかねぇ。

 この『クラッシュ!』、現在はビデオも絶版になって、LDもDVDもリリースされていない状況です。アメリカでも未リリースなので、取り敢えず観る方法としては、テレビ放映(週末の深夜か平日のお昼辺り)を待つか、潰れそうなレンタル・ビデオ店をくまなく探すか方法が無い訳ですが、こんな扱いの映画が、当時は、“ディメンション-150方式”常設館の阪急プラザ劇場という一流映画館で上映されていたかと思うと、感慨もひとしおですな。因みにその阪急プラザ劇場も、今はありません。阪急三番街1Fにあった映画館ですが、今はロッテリアと水族館とコジャレたブティック店街になっちゃっております。周期的に頭上から“ゴォ〜!”という阪急電車の発車音が聞こえるという、疑似センサラウンド常設館でもありましたが、今となっては懐かしい思い出です。

 

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