ビデオよもや!?話

 

第3回 『ラットマン』

 

 

 今回ご紹介するのは、『ラットマン』というイタリア映画。皆さんご存知でしょうか、身長 47p、体重9sという、ギネスブックにも正式に載っている、世界一小さな大人の事を。小さな子供は沢山いますが、小さな大人は、あまりいません。小さな大人、つまり小人の事です。

 名前をネルソン・デ・ラ・ロッサといい、何年か前、日本のテレビ番組(その種の、珍しい人ばかりを集めたビックリ人間大集合みたいな番組でしたが)に出演する為に来日した事があったので、もしかすると覚えている方もいらっしゃるかも知れません。

 その時はテレビだけではなく、週刊誌等でも取り上げられていましたが、ハッキリ言って、凄い人です。本当にこれが人間か(失礼!)と思うような、メチャクチャ小さな人で、確かそのテレビ番組では、ジャイアント馬場さんと一緒に出ていたと思うのですが、まさに、その小ささが強調されていました。

 で、その時にも紹介されていたのが、今回のこの映画です。「イタリアでは既に、『ラットマン』という映画に主演している……」というように言われていて、その時から観たい観たいと思っていたら、2年ぐらい前に、我が日本でもビテオ・リリースされました。因みに、リリース元は、第1回で取り上げた『ザ・キャッチャー』と同じく、アルバトロスというビデオ会社です。ナンか、それだけでイヤな予感がしてしまうものですが………。

 映画はまず、ある博士が「遂に完成したゾ」と言って、一人の助手に、その完成したモノを見せる所から始まります。そのモノというのが、あのラットマンなのでした。何でも、その博士によると、ネズミの精子と猿の卵子を、最新のテクノロジーを駆使して結合させた新種の生物という事らしいのですが、ハッキリ言ってその場所が、およそ研究所や実験室とは考えられない、どこかの汚い掘っ建て小屋まるだしって感じで、もうその時点で、リアリティも何もあったもんじゃなく、最新のテクノロジー云々とやらも多分デタラメなんだろうという事が薄々分かってきたりするのですが、まぁ、それぐらいの事は許してやろうかなと思ったりしている矢先、カメラが、その汚い部屋の片隅にパンすると、そこには、まるで鳥かごのような小さな籠に入れらているモノが映し出され、それが噂のラットマンなのでした。まさに運命のご対面であります。

 「ハハーン、これが例のラットマンかー」と思いながら見ていたのですが、ナンかコイツ、突然変異の新種の怪物にしては、最初から服を着てたり(!?)なんかして、ますます胡散臭さが強調され、怪しいったらありませんでした。まぁ、確かに小さくて、一瞬本物の突然変異か、と思ったりしてしまうのも事実なのですが、画面上としては、もう一つハッキリと映し出してれておらず、ジックリ見るという事は、あまり出来なかったのがちょっと残念。でもまぁ、この後、ドンドン活躍してくれるものとして、後の展開に期待したいと思ったものでした。

 で、そこから映画は本題に入ります。まず、海岸でグラビア撮影をしているカメラマンと二人のキレイどころのモデルが登場、当然コッチの期待としては、その撮影の最中に、モデルの一人がラットマンに襲われるんじゃないかと思っていたら、マッタクその通りになりまして、続いてカメラマン本人が襲われるといった具合に、まぁよくあるパターン通り、ストーリーは進行していくのですが、ちょっと気になったのは、その襲われるシーン等で肝心のラットマン自体が、ハッキリ画面に映らないという事で、これは一体ドーした事かと一瞬不安になったりしたものでしたが、まぁこの辺りはまだ序盤だし、これからドンドン登場して、そのラットマンの実体が明らかになっていくんだろうと、勝手に想像してまったのだが、その不安は、そのまま最後まで続いていったのでした。

 そうです。それから以後、画面に登場した何人もの人々が、次々とこのラットマンの犠牲になってしまうのですが、ハッキリ画面に映し出されるという事はほとんどなく、いわば間接描写ばっかりで、ラットマンによる派手なスプラッター・シーンを期待したコチラとしては、何とも期待外れとも言える有様だったのです。

 その後、生き残ったモデルの姉というのが登場、妹の安否を気遣って、わざわざアメリカから飛んできたという事だったのですが、同時に空港に着いた推理作家が、何故か事件の匂いを嗅ぎつけて、この二人がコンビを組んで、妹の行方を追ってラットマンの核心に迫っていくというストーリーになっているのですが、肝心のラットマンによる恐怖っていうのが、イマイチ具体的に描かれていない為、全く盛り上がらないという状態というのも困ったものです。

 で、後半、ある男にナンパされたモデルが、一夜を過ごす為に医者の家に泊まるというシーンになり、既にその男はラットマンに襲われて重傷を負っているという設定なのですが、その医者というのが、実はオープニングに登場した、ラットマンを作った張本人の博士という事になっていて、本来なら盛り上がってもイイこのシーンが、何故かノホホンとしたムードに溢れていて、一気に脱力感に襲われる事請け合いって感じなのもまた、困ったもの。やる気あるんでしょうか。

 結局、その男もモデルも、そして博士も、助手も、みんなラットマンの餌食になってしまって、そんな所へようやくたどり着いた先程のカップル、姉は妹を失って悲しみにくれているのですが、元気出せよと作家に励まされて、アメリカへ帰っていく姉が抱えたボストンバッグの中に、実はラットマンが入っていたとは、観客以外誰も気付かぬままエンディングを迎えるという、そんな映画でした。エ? もう終わり? という観客の疑問をそのまま置き去りにして、映画は本当に終わってしまいました。ラストに飛行機の乗客の悲鳴が轟いていましたが、まぁ、深く考えないで下さい。

 そんな訳で、こうして『ラットマン』は終わってしまうのですが、やっぱり、さっきも言ったように、ラットマン自体の姿が間接的にしか画面に映らないというのが、どうしても物足りなく、どうも期待ハズレでした。でも、所々画面に登場しているので、よーく観察すれば、それなりに見られるのも事実で、そこは一度挑戦してみては如何でしょうか。

 でもやっぱり凄いと思ってしまうのは、このネルソン・デ・ラ・ロッサという小人さんに尽きます。確かにフリークさんで、生まれながらに身体的な障害があったんでしょうが、まさかそれを逆手にとって、こういう、自分を怪物扱いしている映画に平気で出るっていうのが、凄い事だと思います。日本だとさしずめ、差別問題とかで、色々物議を醸したであろう事を考えると、やっぱり諸外国は進んでいるんだナーって感心してしまいました。

 因みに彼は、この映画の成功(?)で、見事ハリウッド映画にも出演を果たしました。1996年に作られた『D.N.A.』がそれで、大物スターのマーロン・ブランドが、人間と動物とをハイブリッドさせた合体生物を作るモロー博士に扮した映画で、ロッサ君は、博士が造り出した怪物=合体生物という、そのまんまの役で出演していましたので、『ラットマン』を観て彼のファンになった人は、そちらの方も観てみては如何でしょうか。

 そこでも、マーロン・ブランドと一緒にピアノを弾いたりして、アッと驚かせてくれていますが、よーく考えてみると、他の合体生物は、みんな特殊メイクなのに、この小さな生物だけは、ノー・メイク(ちょっとだけ、それらしきものが施されていましたが、ほとんどそのままでしょう)っていうのが、ある意味凄いと思いました。そんな、またも自分を怪物扱いしている映画にも快く出演したロッサちゃんの心意気には、本当にアタマが下がる思いです、ハイ。

 

こいつがラットマンだ! これも観てネ!

  

        

inserted by FC2 system